課題探求型教育について

最近、教育の現場で注目されている「課題探究型学習」について、改めて考える機会がありました。

私のような世代では暗記偏重型の教育がされたとされ、それが悪いことのように長らく語られてきましたが、そうでもないのではと個人的には思っていました。

一般的に、探究型学習のメリットとして、「実社会で生きる課題解決力が身につく」、「教科を横断して思考し、自ら課題設定・情報整理・発信する力を促す」などがあり、一方、デメリットとしては、「自由に任せることで、知識や技能の習得が曖昧になる」、「見た目だけの探究ごっこになりやすい」ということなどが挙げられています。

そして、最近文部科学省が発表した、注目すべき最新データがあります(こちら)。探究型教育を続けた結果、学力が低下した可能性が指摘されているとのことです。

小学6年生・中学3年生ともに、前回に比べ国語・算数/数学・英語で得点が下がったのですが、文部科学省は、その主因として、学習の基礎となる時期にコロナ禍による授業不足があったことを指摘しています。

以下は私見ですが、これは「暗記事項の習得が十分でないまま進むと、じっくり考える力もつきにくい」という重要な警鐘に思えます。小中高生のように若く、十分な基礎知識のない年代に、自己の学習上意味のある疑問が湧いて、仮説を立てたり、課題設定ができたりすることはあまり期待できず、むしろ、乾いたスポンジのように吸収力のある時だからこそ、さまざまな知識を詰め込んでいくことにも意義があるはずです。

探究型学習には、子どもが主体的に学び、社会とつながる学びを生み出す魅力があります。ですが、暗記が身についていない状態での自由な探究は、単なる楽しい体験や興味喚起にはなっても、学力としての定着にはなりにくいのではないかと感じています。

例えば、理科の授業で「LEDに電流を流すとどうなるだろう?」と自由に実験させることは理科への興味を呼び起こすかもしれません。しかし、そこで「LEDがなぜ光るのか」「電流とは何か」「逆向きの電流ではなぜ光らないか」といった基礎的な知識や暗記しておくべき事項が不足していると、見た目の反応に終始し、深い理解には結びつきません。

LEDの発光実験

指導側の負担はありますが、その意味で、次のような「暗記を軽視しない課題探求型教育」こそ、より理想に近い教育の流れだと考えています。

(1)まずは基礎知識を確実に定着させる(=暗記と理解)
(2)その上で思考力・探究力を組み合わせ、「気づき」や「自らの考え」を深める

理科の実験教室(探Q教室と称しています)でも、実験の前にしっかりと基盤となる知識を、資料集や講義を通じて指導してから実験に取りかからせています。また、教科の指導においても少しでその理想に近づく方法論(自作プリント等)を研究し、実施しています。基本の知識を繰り返す(=暗記する)ことで基盤を築くことの重要性を強調し、発展問題への挑戦も取り入れ、学びに「体験」や「考える楽しさ」を組み合わせる指導を行っていることはその一つです。

探究型の学びは素晴らしいコンセプトです。しかし、まずは「知識の土台」があってこそ、その先にある思考の自由や意欲が活きてくると私は考えていますので、暗記と探究、この二つのバランスを大切にしながら、子どもたちの学びを支えていきたいと思っています。

徳進館進学ゼミナール
タイトルとURLをコピーしました